社会福祉法人聖ヨハネ会桜町病院
医療ソーシャルワーカー
病気になってからも続いていく暮らしを、
一緒に考え、支える仕事。
桜町病院は小金井市の住宅街のなかにある、地域の暮らしに根ざした病院です。医療を受けながら、住み慣れた街でどう暮らし続けていくかを、かかりつけ医のような形でサポートしています。患者さんが自宅に戻ることができるようにケアをする地域包括ケア病棟、自宅では過ごせない方のための療養病棟、ホスピスケアをする病棟など、いろいろな機能を併せ持つケアミックス型の病院です。
ここで私は医療ソーシャルワーカーとして、患者さんやそのご家族に福祉的な立場から相談に乗っています。たとえば治療にかかるお金についてのお困りごとから、治療を受けながら仕事や学校での勉強をどう続けていくか、必要な介護をどうやって受けられるようにするか、活用できる公的な制度にはどういうものがあるかなど、相談は本当にさまざまです。地域の福祉施設や行政とも連携して、利用申請の手続きを患者さんと一緒に行なったりもしながらサポートしていく仕事です。
ただ、相談は信頼関係がなければできないもの。まずは私自身を安心して相談できる人間だと思っていただかなければいけません。高齢の患者さんにとっては孫くらいの年齢の私が、専門職だからと偉そうな姿勢だったら、相談なんてしたくありませんよね。失礼な踏み込み方にならないように、何度か面談を重ねながら少しずつお話をお聞きしていきます。大変な状況にある患者さんやご家族が話してくださる一つひとつの言葉、一場面一場面の仕草をしっかりと受け止められるように、相談の時間を大事にしています。
社会福祉学の勉強をする毎日は、
とても刺激的で楽しかったです。
私はもともと、人と話すことが大好きな子どもでした。高校生になって飲食店のアルバイトを始めてから、人と関わる仕事がしたいという想いが強くなりました。人生の転機は、高校2年生のとき。ある治療で通院したことです。私の治療費は親が出してくれていたものの、決して安くはないお金です。もしこの金額を支払えなければ、人は全く治療を受けられないのだろうかと、医療にかかるお金のことが初めて気になりました。
調べてみると、病院にお困りごとの相談に乗ってくれる“医療ソーシャルワーカー”というお仕事があることを知り、この仕事をやってみたいと思いました。養成カリキュラムがある大学を調べて、武蔵野大学の社会福祉学科を知り、志望しました。
社会福祉学科の勉強は好きでした。自分が知りたいことを学べるって、こんなに楽しいんだなと感じました。違う視点を持っている友だちや先生の言葉はとても刺激になり学ぶことが多かったです。大学のボランティアセンターにも登録し、地域のお祭りのお手伝いで地元の人たちと交流させてもらうのも、とても楽しかったです。
いちばん印象に残っているのは、大学4年生の春に訪れた実習先でのこと。人生で初めて医療ソーシャルワーカーさんのリアルな面談に立ち会いました。治療法がない神経の難病を抱えた患者さんと、人工呼吸器をつけるかつけないかという選択についてお話しする面談でした。そんなにシビアなことを話し合うにも関わらず、その方は実習生の私が立ち会うことを快く受け入れてくださったのです。それどころか面談が終わるとき、実習生の私に「国家試験はいつなの?」と聞いてくださって、「勉強、頑張ってね。」と声を掛けてくださいました。病気と向き合っていて、厳しい選択をしなければいけない状況の患者さんが、他者にそういう気持ちを向けられるのは本当にすごいことだと思いました。今でもずっと忘れられない一場面です。
どんな人にも医療を受ける権利がある。
誰も取り残されることのない社会へ。
さまざまな方の“生きざま”に立ち会い、関わることができるのが、医療ソーシャルワーカーという仕事。年齢を重ねるほど見えてくるものがあって、経験を積めば積むほど、より患者さんのお役に立てるようになる。頑張り続ける価値ある仕事だと誇りに思っており、できるかぎり、ずっと続けたいです。学生の皆さんにも、この医療ソーシャルワーカーという仕事を、ぜひ、もっと知っていただけたら嬉しいです。
日本の社会には、様々な事情で困窮していて、病気になったとき、医療にお金を充てることができない方が多くいらっしゃいます。海外からの難民や移民の方々にも、日本の健康保険に入ることができず、何の支援も受けられない方がいらっしゃいます。私はそういう方々にも、制度を使って治療を受けられる可能性を残したい。医療を受けることを諦めなくて済むようにしたい。
法律や制度をつくることはすぐにはできなくても、関わる人のちょっとずつの努力で、制度に準ずる支援ができるかもしれない。その人が抱える苦しさや不安を全部取り除くことはできないとしても、私たちのお手伝いが生きづらさを軽くすることにつながるかもしれない。そのためにできることを頑張りたい。どんな人にも平等に医療を受ける権利があって、それを守るのが医療ソーシャルワーカーだと私は思っています。
うまくいかないこと、壁にぶつかることは私にもたくさんあります。そんなとき、自分はダメだと落ち込むのではなく、相手や環境のせいにするのでもなく、一呼吸おいて、「じゃあ、どうしようか」と柔軟に考えること。そして、簡単に諦めず、コツコツやっていくこと。腐らず粘って続けていくと、頑張りを見てくれている人はいて道は開けると思っています。
宿泊型「オリエンテーションキャンプ」。
武蔵野大学では4月に新入生向けのオリエンテーションが開催されますが、猪瀬さんの在学時、社会福祉学科では新入生全員で山梨県の温泉旅館へ1泊2日の「オリエンテーションキャンプ」に行くこともあったそうです。内容を企画するのは「学生アドバイザー」を務める社会福祉学科の先輩たち。「新入生に良い学生生活のスタートをきってほしい」「入学したての不安を少しでも解消できるようサポートしたい」と、前年の秋から企画や準備をして、楽しいレクリエーション、手話歌の披露、福祉についてのイメージを意見交換するグループワークなどを実施。猪瀬さんも企画運営に携わり、新入生たちとのコミュニケーションに力をいれていたのだそうです。2011年からは宿泊型ではなく、武蔵野キャンパスで1日かけて行う「オリエンテーションプログラム」となっていますが、今も新入生のスタートをみんなで応援する伝統はつながっています。
勉強になることばかりでした
お話を聞いて、猪瀬さんの誠実さや芯の強さが伝わり、多くの患者さんから頼りにされていることを想像しました。初めて聞くお仕事でしたが、勉強になるお話ばかりでした。もし今後、医療を受ける機会に、家族や自分のことで困ったことがあれば医療ソーシャルワーカーさんに相談したいです。今回の取材を通じて、あらためて武蔵野大学に尊敬できる先輩がたくさんいらっしゃると思いました。後輩として誇りに感じます。
過去の経験から患者さんの限りある時間を大事し、言葉の一つずつに思考を巡らせていることに驚きました。また猪瀬さんのお話の仕方、丁寧な言葉選びなどから患者さんに真摯に実直に向き合っているのだなと感じました。明確な目標をもって武蔵野大学に進学され、学内でも向上心高く後輩の面倒をみたり、資格の勉強をしたり、多くの活動をされていたことをお聞きして、私自身も感化され、頑張りたいと思いました。
退院後の患者さんの暮らしを、親身になって一緒に考え、医療的立場から支えている猪瀬さん。学生時代から勉強熱心で、たくさんの「生きざま」に間近で立ち会ってきた先輩のお話は、とても興味深かったです。誰もが平等に医療を受けられるように奮闘しながらご活躍されている姿はとてもかっこよくて、私たちの原動力になりました。
病気と向き合いながら、ご自身が厳しい状況なのに実習生の国家試験を心配してくださる。猪瀬さんが実習中に出会った患者さんのお話が印象的でした。医療ソーシャルワーカーというのは、患者さんやご家族にとって影響力が大きく、難しい仕事であると知りました。そのような大切なお仕事に、ご自身の考えを持って働く猪瀬さんのお話に武蔵野大生の強さを感じて、後輩として胸が熱くなりました。
取材日:2023年12月 所属・肩書等は取材当時のものになります。